つい先日のライブで客席にめずらしい顔がいた。
ゲンジの弟だ。
出番を終えた俺は「そうか、バンドやってんだったよね。来てくれてありがとう」とか呑気に喋る。
「いや、実はアカオゲンジが亡くなりました。ライブの時に言うのもアレだけど、お伝えしときたくって」
え。
ちょっとよくわからない。
でもそうだ、何年か前に会ったあいつは糖尿病だと言ってインスリンの注射を見せた。
「そんなもん見せやんな。でも、そうなんやね。面倒やろ?」
「地獄っすねー。えへへ」
えへへ、じゃないったい。
アカオゲンジとは、THE HEALSの南さんや他の仲間と一緒にやっていた「玄界灘音楽事務所」のコアメンバーだ。
センスがズバ抜け過ぎて、世の中を追い越すタイプの天才。
他人から見たらただの胡散臭い奴だろう。
あいつからしたら、俺は小器用で調子良く生きているアホンダラだったかもしれない。
俺はお前のこと、なんにもわかってないよ。わかる気がなかったのかもな。
でもわかるわけないし、わからないから好きなんじゃないかな。
おセンチになって泣く年齢でもないけど、その日はすごく酔いつつも、ずっとずっと呑みたくてアジの家で呑ませてもらった。
今の仲間と呑みながら5時間に1回くらい、ゲンジを思い出した。
どうやって家に帰ったかわからないけど、翌日はケツから血を流しながら死にそうな二日酔いで何かを呪った。
奇しくも新曲として数日前に書いた歌は「わたしたちは厳しすぎる」という、寛容と不寛容の両岸から一本橋を歩く人間の歌だ。
いつも自分の正しさや快楽に酔っているだけの俺は、ゲンジの痛みを知ることはなかった。
友達を亡くすたびにそれに気づいても、空いた穴を見つめるだけで、今更何かを変えるわけではない。
お前は自分の写真をまったく残さなかったそうやね。
正しいんやろうたい。
それで俺がここに載せるのは嫌なんだろうけど、文句あるなら枕元に立て。金縛りしてこい。
お前と知り合えてよかった。
この写真の日、エンケンさんの純音楽にさわった日よ。
俺は払いが足りず、この写真の5時間前に自分の車を売って金を作り会場入りした。
お前は自作の妙に面白い長Tee着て会場を忙しそうにふらついていた。
南さんはいつもの南さんで、調子に乗る俺をコントロールしてくれた。
でも全員、これは世界一の体験だと思った筈。
ヒリヒリする感覚。
今もわかる。
お前の「天然アジャパー」Tee。マジックで自作したところがかなり最高。
あの世に行ったからと言って遠藤さんのところに押しかけないように。
後々、注意しに行きます。